アポストロフィーS

ワンワン!ワンワンワン!

ヴァン・ダイク・パークス『ディスカヴァー・アメリカ』



 さて、スティールバンドのアルバムでたぶん一番売れてるのは『エッソ・トリニダード・スティール・バンド!』だと思うんすけど、そのESSO(Tripoli)も参加してるこのアルバムは、意外と知られていないようなので紹介しましょう。
 これは1972年に発売された、ヴァン・ダイク先生のソロ2作目*1。バーバンク・サウンドの影の立役者として暗躍したヴァン・ダイク先生は、はっぴいえんどの3rdアルバムのプロデューサーとしても知られていますね。…ってご存知ないっすか??
 そもそもESSO(Tripoli)のアルバムもヴァン・ダイク先生がプロデュースしてるのに、日本のパン関係者はあまりそこらへんに興味がないみたいで、どうにも話が通じないことが多い…。まあ、単にぼくがヲタってだけなんでしょうけど、それにしてももうちょっと知られててもイイと思うんですよねー。つか、このアルバムはカリプソ好きなら聴いておいてソンはないっすよ。


 このアルバム、のっけからマイティ・スパロウの「Jack Palance」で幕開けなんすよ。もうノリノリっすよ。なんせこの曲は実際にスパロウが歌ってますからね。そう、スパロウ本人なんですよ。声の調子も絶好調でね…ってまあスパロウはいつも絶好調なんですけどねー、なんてったって ネ申 ですからね。東京じゃもうすぐライブですね…行けねー行きてー!!!!(´Д⊂
 2曲目はラジオからのコラージュで、曲じゃありません。
 3曲目「Bing Crosby」、一曲飛ばして5曲目「The Four Mills Brothers」、これは30〜40年代に活躍したトリニのカリプソ歌手・ロアリング・ライオンの曲なんだそうですが、ストリングスを交えたアレンジにしてありますねー。いずれの曲もアメリカの歌手がモチーフになっていて、歌詞の内容を比べるとオモシロイ。一方では「ビング・クロスビー最高♪」なんて歌っておいて、「やっぱ黒人歌手でなきゃ♪ フォーミルスブラザーズのコーラスにシビれっぱなし♪」だもんねwwwww
 そんなライオンのカリプソ曲に挟まれた4曲目こそ、我らがESSO(しつこいけどTripoli)の演奏曲なんすよ。演ってるのはロード・キッチナーの「Steelband Music」!*2 いやあ、この曲ね、歌詞がもう最高なんですよ。特にサビね、ライナーから引用↓。

 The dominant chord from the guitar man
 The prominent note on the tenor pan
 Music in the place
 But it's hell to keep up the pace with the bass


 ギターマンがくりだすコード演奏にのって
 テナー缶が織りなすメロディラインを聞けば
 まさにそいつは天上の音楽
 ただしベースのペースに合わせるのは地獄
 ひどく酷な技なのさ
 (訳詞:室矢憲治

 これ、身に覚えのあるパン関係者は実に多いのではないかと思うんすよねー。かくいうぼくも身におぼえがありすぎて、いやあ、その節はみなさまご迷惑を…トホホwwwみたいなwwwww と同時にですね、スティールバンドの奏でる音楽の構造をズバっと簡潔に説明してある。すばらしい歌詞じゃないですか! 原文の韻、いわゆるライム踏みまくりなとこがまたたまりませんね。


 この後何曲かは、さっぱり情報無し。ライナーにも詳しいことが書かれていないので、もうまーったくわかりません。6曲目「Be Careful」にはパンのソロパートが組み込まれてますが、誰がソロ演ってるんだろ?? ロバート・グリニッジ先生かとも思ったんですが、クレジットに名前無いんすよね…。


 わかってる範囲だと、8曲目「FDR In Trinidad」がこれまた30年代のトリニのカリプソ歌手・アッティラ・ザ・ハンの曲。この曲はライ・クーダーも取り上げてるらしいっす。第二次大戦後にアメリカ大統領ルーズベルトが、平和会議出席のためブラジル〜アルゼンチンを巡った後にトリニを訪問した、その時の熱狂的歓迎ぶりを歌にしたもので、ハミングバード♪のコーラスが印象的。
 10曲目「Occapella」、一曲飛ばして12曲目「Riverboat」、これはアラン・トゥーサンの曲。ぼくがアラン・トゥーサンの名前を知ったのは、ボ・ガンボスの1stアルバムのレコーディングにまつわる雑誌記事だったと思う。そう、例のニューオリンズで録音されたすばらしいアルバムっすよ。つまり、ニューオリンズな曲ってこと。そいつらにサンドイッチにされてる11曲目はリトル・フィートの「Sailin' Shoes」。このあたりはリトル・フィートを知るヒトにはとてもとても興味深いトコロでしょうが割愛www
 13曲目「Ode To Tobago」、14曲目「Your Own Comes First」は、キッチナーの曲で、しかもキッチのアレンジまんまなんだそうな。ちなみに当時のキッチのアレンジャーは故クライブ・ブラッドレー!(ソース:ヤン富田「スティール・ドラム・アーカイヴ」relax誌2003年6月号収録)


 たぶん他の曲もそれぞれ元ネタがあるのでしょう。というのはね、↓こんな話があるからなんです。

このアルバムの趣旨のひとつとしてとても重要なのは、この作品集がカリプソの作曲家たちに正当な報酬を与えるという目的を持っていることです。トリニダードの作曲家たちはアメリカで音楽出版登録をしていないので、アメリカのラジオで彼らの曲が流れても報酬を得ることができないのです。(中略)
ヴァン・ダイクはこのような状況を打開する為に、カリフタ・カンパニーという音楽出版社を作り、このアルバムに収められたカリプソの名曲群の著作権登録を行い、そこに入ってくる著作権収入を原曲の作曲家(その多くは故人なのでその遺族)に分配したのです。

 レコード会社に勤務してるヴァン・ダイク先生だからこその計らい、ではないかと思うんですよねえ。


 アルバムのラスト16曲目「Stars & Stripes Forever(星条旗よ永遠なれ)」、これすぐに終わっちゃうんですけど、ESSO(ホントにしつこいけどTripoli)が演奏しています、インストです。ライナーによれば、ヴァン・ダイク先生のおじいちゃんであるリチャード・ホール・パークス三世は、この曲の作曲者ジョン・フィリップ・スーザのバンド・60シルヴァー・トランペッツのメンバーだったんだそうな。カタカナ長くてごめんwwwww
 そもそも「星条旗よ永遠なれ」は行進曲、となればロードマーチには最適ってことで、この録音も、まるでアラウンド・ザ・ネックで街を練り歩いているかのように聴こえる…のは、ぼくがヲタクだからでしょうかねえ…。


*1:ちなみにヴァン・ダイク先生ソロ1枚目『ソング・サイクル』はビートルズ「サージェント・ペッパーズ〜」に匹敵するコンセプトアルバム!と一部マニアには大受けだったが、セールス的には全く当たらずという…。いつの世にもヲタクってのはいまして…。

*2:ん?? ヤン富田氏による「スティール・ドラム・アーカイヴ」によると、この「Steelband Music」はアール・ロドニー作でスパロウが歌ったって書いてある…。でもICE盤のクラシック・キッチナーの1枚目に入ってるよね、この曲。めずらしくヤンさんがチョメした?? どなたかカリプソにおくわしい方、コメント欄に降臨くだせえヽ(`Д´)ノ