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リリアン・ヘルマン『眠れない時代』

眠れない時代
眠れない時代
posted with amazlet at 05.09.10
リリアン ヘルマン 小池 美佐子
筑摩書房 (1989/03)


 上に挙げたのはちくま文庫版ですが、ぼくが持っているのは古本屋で買ったサンリオ文庫版(85年初版)。ずっと前にぶらっと入った古本屋でたまたま見つけて、サンリオ文庫は絶版で入手はむつかしいときいていたし、全く知らない書き手だけど、とりあえず押さえでと思い買っておいたのです。
 こないだ、ビデオ編集の合間、エンコード中にふと読み出したのですが、いやー、これがかなりイイんですわ。すばらしい内容!
 作者リリアン・ヘルマンは劇作家。草創期からの伝統あるスティールバンドのひとつも名前を頂いた映画『北極星(The North Star)』(43年公開)は彼女の原作・脚本だそうだ(見たいなあ!)*1。元祖ハードボイルド作家ダシール・ハメットの恋人で、ハメットが死ぬまで30年近くを共にした人。彼らは結婚することはなかったが、当時広大な農場を所有しいっしょに暮らしていた。ハメットの出版された最後の長編小説『影なき男』には彼女をモデルにした人物が登場するという(読みたいなあ!)。奔放で、論理的思考ではなくむしろ生理的嫌悪感で物事を判断する、大酒呑みで癇癪もち、それでいて抑制のきいた品位を保って凛としていて。ようするに、カッコイイ女の人なのだ。愛すべきキャラクターの持ち主なのだ。
 この本は、彼女の自伝の第3弾なんだけど、その「第3弾」ってので、ウッカリ「そのうち第1弾から読もう…」なんつって、ずーっと読んでなかったんだ、実は。テヘ♪(←かわいくないって…)
 赤狩り、というのが50年代のアメリカでありまして、その時代のことについて書いている本なんですよ。赤っていうのは共産主義者共産党員のことね。当時のアメリカは、第二次大戦でファシズムどもを徹底的に叩きのめして──あ、言うまでもないけどファシズムには日本も含まれますよ当然──それが成功しちゃったもんだから調子にのってるワケです。で、次なる脅威はソ連なワケですよ。んで戦時体制そのまま冷戦に突入。戦争というのは近代国家の肥大化を呼び起こし、一度達成された肥大化・増殖化はその維持も含めてデフォルトとされてしまうワケなんですな。←熟語で語るともっともらしく見えつつサパーリ分かりにくくなりますが、ようするに戦争して儲かった資本家のブタどもが、さらにおいしい汁吸うために国家体制を戦時下のまま維持しちゃおうっていう魂胆なワケです。アレ? 今のアメリカも同じじゃんwwwww つか、アメリカに限らず、こういったことは近代国家の常套手段でありますから、ナチス政権下のドイツだろうが、小泉政権下の日本だろうが、同じようなことはそこいらじゅうにゴロゴロと転がっとるワケですな。
 小泉クンが徹底的にやるといってる「構造改革」、そのための「郵政民営化」なるお題目も、しょせんはそれで甘い汁吸える輩がいて、そいつらが金もってて近代国家・日本の中枢にたかっておるからであります。ようするにそいつらの言いなり。
 そういったことを隠すために、いわば「民主主義」なるタテマエのお題目があるのであります。で、そゆことをわからない、あるいはわかっていてもそれがどうした?と平気で言ってのけられる、国際組織A.F.Oの一員に違いない輩どもが気取って言うワケですよ、「投票に行くのは国民の義務として当然」だのなんだの。ケッ、バカバカしい!! 第二次大戦下の竹槍訓練のようなもんじゃねえかYO! いいよねえ、選挙に行って投票するだけで、「意識の高い自分」にウットリできちゃうんだものねえ。そのことで、選挙に行かない人間を、「政治に無関心な輩」だの「意識の低いヤツ」だのと見下すことができるのだものねえ。それが「民主主義者」クオリティ。
 ナチス政権に突撃隊があったように、50年代アメリカには非米国活動調査委員会なるものがあった。これがソ連の脅威にかこつけて権力を握り、赤狩りをおっぱじめた。正体の見えない不安感をアオり、自己保身に走った者は虚偽で固めた証言で権力にすりよった。この「証言」っていうのは、おおざっぱに言えば、共産主義者が少しでも関わったパーティーや会議に出席した者は赤にカブれてる恐れがあるから出席者の名前をあげろってなもの*2共産主義者だったらしいハメットも委員会に呼び出し喰らい、彼は証言を拒否したため投獄される。
 いっしょに暮らしていたハメットが投獄されたのをまじかに見せつけられて、しばらくしてからついにはヘルマンも証言台に立たされる。その時彼女は「自分を救うために、何年も昔の知古である無実の人を傷つけるなどということは、非人間的で品位に欠け不名誉なことに思われます。わたしは、良心を今年の流行に合わせて裁断するようなことはできませんし、したくありません」と言って*3、証言を拒否するのだ。(・∀・)カコイイ!!
 このことにより赤狩りの猛威を振るったいわゆるマッカーシズムに対する風向きが変わったんだって。まあ、上記のセリフは当時から話題になり、また話題になるように彼女の弁護士が立ち回った結果なワケだけども、この権力に屈しない勇気、凛とした品位にはやはり胸打たれるです。素晴らしい。
 巻末の訳者による解説がまた素晴らしい、わかりやすくコンパクトにまとめてくれていてたいへん助かります。たぶんちくま文庫版にはまた別な解説もついているのかな? 今度本屋か図書館でチェックしてみようっと。
 で、思ったのはですね、同じテーマを、学校を舞台にして扱ってるのが『女王の教室』なんだよなってことなんです。…ああ、この文章、時間かけて書きすぎだ。そろそろDVD焼き焼き作業に戻ります。中途半端になってすんませんが、今日はこれにて。

*1:以前にも書いたけど、初期パンマンたちは米映画に熱狂していた不良少年たちであります。詳しくはhttp://www.seetobago.com/trinidad/pan/goddard/ggbkfram.htmを翻訳して読んでみてください。

*2:うはwwwwwおおざっぱすぎwwwww

*3:つか、実際言ったワケじゃなく、手紙で書いて送ったワケだが。