アポストロフィーS

ワンワン!ワンワンワン!

獅子文六『コーヒーと恋愛(可否道)』

 まあちょっといつもの調子で書きますね。コーヒーは、昔はあんまり飲まなかった。サニーデイサービスがメジャーデビューした頃くらいから飲むようになったんだけど、それまでは紅茶とかチャイとかが大好きだった。大阪はチャイショップが多いから、友達と行くとなるとN.Pとかカンテ、ガネーシュなんかだったこともあって、コーヒーは全然飲んでなかったなあー。紅茶は基本的にストレートで飲むのが今でも好きだけど、チャイはチャイで、時々ムショウに飲みたくなるなあー。
 でも、コーヒーも好きになった。なんか紅茶じゃ物足りなくなっちゃったんだよねー。コーヒーの過剰なカンジが良くなったの。そんな頃にこの本を古本屋さんで手に入れて読んだんだけど、めちゃめちゃ面白かった。
 モエ子さんっていう43歳のテレビ女優さんが主人公。パッとしないルックスの彼女だけど親しみやすさが買われてテレビの人気者。そんな彼女にも若いツバメがいるワケよ。勉ちゃんという新劇の照明をやってる男の子といっしょに同棲してるのね。で、彼女のほとんど唯一の特技が、なんとコーヒーを淹れることなの。彼女が淹れるとあらフシギ、めちゃめちゃウマいコーヒーとなる。実は勉ちゃんもそこらへんが理由でいっしょに暮らしてたりする。
 ところがある日、急にウマいコーヒーが淹れられなくなって、勉ちゃん出て行っちゃうのね。で、そのことを、前々から親交のあった日本可否界なるコーヒー愛好家グループのメンバーに相談して…てなところから物語は始まるワケですがね。
 文六先生は文学座の設立にも関わった新劇界の重鎮だったりもするから、テレビ/演劇界隈の描写もかな〜りイケてるんですが、それよりも、やっぱ日本可否会ね。可否ってえのがみなさんご推察のことと思いますが、エエ、コーヒーのことなんですよ。可否道なんつって家元名乗ってる菅ってえ人物が出てきちゃうんですが、これがもうマニアの典型でねえ。このヒトがまたコーヒー淹れるのがウマいモエ子さんに萌えなワケなんですよ。萌え、の説明はしませんよ、いまさら。
 60年代前半に読売新聞に連載されたもので、当時のタイトルは『可否道』。60年代末の角川文庫化に際してこのタイトルとなったようですねえ*1。ちなみにかなりのレア本らしいんですけど、ぼくはフツウに古本屋さんで百円くらいで買いました。前々から文六先生好きなんで。
 もともとおフランスで演劇の勉強して、しかもおフランス人の奥さんまでもらっちゃうってえヒトだった文六先生ですから、朝起きて飲むのはコーヒー、これ常識っちゅうくらいなもんだったらしいんすよねー。で、この小説を書くにあたって、かなり取材もなさったようで、インスタントコーヒーの試飲会にまでお出かけになられたそうです。だから当時のコーヒーに関しての雑学がコンパクトにギュッと詰め込まれていて、そのあたりもオモシロイんですよー。なんていうか、ちょっと古い日本映画をパンフレット付で楽しめちゃうカンジっつーの? ま、コーヒー飲みながらニヤニヤ読むのがいいカンジですよ、この小説。
 …てワケで、実際にコーヒー飲みながらニヤニヤ読み返してるワケなんですがね。やっぱオモシロイねー。60年代っていう時代がオモシロイんだよねー。おかげでコーヒーもウマく淹れれてる気がする。気のせいだとは思うけど(笑)
 検索してみたらなんと松竹で映画化もされてるらしいです。主演は森光子。文芸作品の映画化なら松竹のお家芸ですし、観てみたいもんですな。ソースはここ↓です。
http://www.mypress.jp/v1_writers/chomo/
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD21204/

*1:同名曲がサニーデイサービスにありますが、どうなんだろ? あんま関係ないような気がするなあー。