アポストロフィーS

ワンワン!ワンワンワン!

藤山直美さん主演の…

 あー、見たい見たい見たい〜ッ! 『夫婦善哉』見たい〜ッ!! 藤山直美さんとジュリーが主演! こりゃ見ないと絶対後悔しちゃうよなあー。ちくそお、お金さえあれば…(´Д⊂グスン

 去年だか一昨年だか、藤山直美さん主演の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』というお芝居を見に行ったんですよ。そうそう、一昨年の11月だわ。原作・脚本は故・有吉佐和子先生です。その時もホントにお金がなくて、ヤフオクで安くチケットをGETしてですね、なんとか行ったんですよー。当然スーツ着て行くですよ、そういう劇場ですからね、大阪松竹座ってのは。
 お芝居はもうめちゃめちゃ良くてねえ。牧瀬理穂さん演じる病気で寝たきりの花魁も憂いあって美しかったですけど、ナント言っても藤山直美さんの安定感ですな。とにかく安心して見ていられる。芸に華がある、と言いましょうか。イエ、ワタクシなんぞが今更言うべきことではないですが、お客を満足させることに関して、藤山直美さんに匹敵できる女優さんというのは今ちょっと見当たらないんじゃないですかね。お芝居のあまりの良さに、思わずパンフまで買っちゃってますからね、ワタクシ。お金ないクセに。
 攘夷か開国かで揺れる幕末の横浜、遊廓・岩亀桜(がんきろう)が舞台。行燈(あんどん)部屋で病にふせっている花魁・亀遊(きゆう)を、何かにつけて見舞うおしゃべり好きの芸者・お園。このお園を藤山直美さんが演じておるワケです。
 さて、芸者と花魁というのが今時のワカモノにはわかりにくいと思うんですが、これは全くの別モノです。すっごく野暮な言い方になりますが、花魁は売春婦、芸者は三味線もったうたうたい。花街のこのあたりの設定(と呼んでイイのか?)については有吉佐和子先生の『香華』あたりをお読みになってください。
 病にふせる花魁を見舞うのはお園だけではなく、通辞として雇われてる青年・藤吉がいるのね。二人は初々しいくらいウブな恋仲なんだけど(このあたりの描写はサスガに有吉さん、ウマイです、超カワイイ〜♪)藤吉は医学を志しており、アメリカへ渡るつもりでいるワケです。花魁に蘭学でおぼえた処方箋を出し、花魁はどんどんどんどん回復していくんだけど、そうなりゃ遊廓、女郎屋ですからね。働かなけりゃならない。
 二人は話合った結果別れる。別れて、久しぶりに花魁として美しく装うと、あるアメリカ人が彼女を買おうとするんですね。当時の遊郭には日本人専門のお女郎さんと、外国人専用のお女郎さんがあり、花魁・亀遊は日本人専門(日本人口といいます)なんだけど、その美しさに魅せられたアメリカ人はどんどん値を吊り上げます。でまあ、病気で寝たきりでちっとも稼ぎがなかったこともあって、岩亀桜の主人、この身請けをOKしちゃう。ところがショックのあまり、亀遊は自殺してしまうんです。
 長い鎖国からやっと開国したばかり、異人なんて長崎に行かなきゃ見れなかった江戸時代です。また、当時の日本人は現代人よりひとまわりもふたまわりも体格小さいですから、そりゃアメリカ人やらをみりゃこりゃ鬼ですよー。鬼畜米英ですわな。しかも彼女、恋が終わったばっかりでしょ。
 しかし時代は彼女をほっとかないんですね。彼女の自殺はオヒレヒレついてハラホロヒレハレ、なんと「異国人に身体を汚されまいと見事に最後を遂げた攘夷女郎」として大々的に瓦版で報じられてしまう。その時の辞世の句として詠んだとされるのが、タイトルにもなっている「露をだにいとう大和の女郎花(おみなえし)ふるあめりかに袖はぬらさじ」なんですね。反米イデオロギーとして政治利用されてしまう女郎の死。
 連日「攘夷女郎のいた廓」を見にくる客がいっぱいで、岩亀桜も攘夷方にすりよるように模様替えされる。亀遊自殺の真相を知っているお園も、本人の思惑とは別に、彼女を死を脚色して語らねばならぬハメになる。何年か後に攘夷派の武士たちが何人か訪れ、お園はすでに慣れた調子で講釈師よろしく語り始める。しかし、何かの折に彼女の話が作り事だとわかり大騒動になってしまう。
 結局は攘夷派による自作自演に気付き、お園に口止め料を置いて帰ってゆくんですけどね、雨の中、刀で追い回され腰の抜けたお園が、捨て置かれたサイフを拾い、おっかなびっくり悪態をつく。「みんな嘘さ、嘘っぱちだよ。おいらんは、亀遊さんは、淋しくって、悲しくって、心細くって、ひとりで死んでしまったのさ。(汽笛)それにしてもよく振る雨だねえ。」
 このラストのセリフの説得力! 攘夷か開国かで揺れる政治的混乱の幕末を舞台に、情報化社会としての大衆社会に鋭く迫る一方で、このパンクなセリフの持つリアリティが輝いてるのは、女を描ききった作家の力量でしょうね、やっぱ。ホントに大作家だよねえ有吉佐和子先生。もう一回見たいなあー(´Д⊂グスン
 ちなみに藤山直美さんの『ふるあめりかに袖はぬらさじ』って、企画・演出は坂東玉三郎先生なんだよね〜。藤山直美さんを口説いての演出。直美さんはあまりのことに最初断ってたんですって。玉三郎先生から「やんない?」って言われても、そりゃ冗談かいなと思うよね。なんせ、玉三郎先生、自身がお園を何度かお演りになってらっしゃるくらいですからね。直美さん、勉強させて頂くつもりで引き受けたってパンフの対談で語ってらっしゃいます。もうすっかり贔屓ですからね、ワタクシ。今回のお芝居も、できたら見に行きたいなあ〜。