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ワンワン!ワンワンワン!

宇宙へ行くつもりじゃなかった──映画『宇宙ショーへようこそ』案内

 久々に通常更新します。ワンワンですどうも。

 今回は、どうにも評判が良いのか悪いのかよくわかんないことになってる映画『宇宙ショーへようこそ』を取り上げたいと思います。



 まずこの映画、評判も何もあまり知られてないんじゃないの?という疑惑があります。出資元がアニプレックスさんで、深夜アニメ枠くらいでしかCMやってないみたいなんですよね…。

 たとえば朝のTV番組の合間とかにどーでもいいよーなお笑い芸人さんが映画の宣伝してたりするようなのって一切ナシなんですよ。あるいは「○○は××を応援しています!」的なブランドに寄りかかることで企業イメージアップを図るみたいなのもないし。

 そんなわけで、今この文章を読んでるあなたがご存じないのも無理はないわけです。宣伝が圧倒的に足りないと思う。もったいないけれども、しかしこれがおそらくアニプレックスさんの限界なんでしょう。



 とりあえず、予告を貼りますね。

 どうです?素晴らしいでしょう?



 自分は6月の公開初日に広島バルト11に観に行きました。それから先月にも行きましたので、今のところ2回観ています。自分的にはバツグンに面白い!のですが、しかしダメな人にはダメだろうなとも思うのですよ。



 ダメな人にとってのダメな点と思われるものを列挙してみましょう。

 まず第一に長さ。136分あります。つまり、2時間20分弱。これは映画としては長い。

 続いてつめこみすぎだという意見があります。主要キャラだけで小学生5人、これに宇宙人のポチを入れれば6人です。これはオリジナル映画としてはボリュームがありすぎです。

 よくこの映画を評してドラえもん長編映画を思い出したという意見がありますが、国民的なTV番組であるドラえもんならば主要キャラを知らない人はいないでしょう。しかしオリジナル映画である本作ではそのキャラをまず把握してもらわなければなりません。その部分は必然的にあるていど説明的になってしまいます。まあ、それでも説明臭くなっていないのは見事な演出ではないかと思うのですがね。

 あまりネタばらしはしたくないのですが、メインのストーリーは夏紀と周(あまね)との間にある関係性の問題で、そのことを補強するためにポチたち大人の(というか宇宙人の青年たちの)友情のエピソードをサブストーリーに置いています。あくまでサブなので、こちらは行間で匂わす的な演出となっているワケですが*1、これに対して説明不足ではないかと仰る向きがある。説明不足になるくらいならそこはバッサリ切ればいいのにという意見があるのですね。

 おそらくこういう方にとっては、『風の谷のナウシカ』という映画は素晴らしいものなんでしょうねえ。原作からバッサリと冒頭部分だけ切り出して、神話的にまとめあげたアレは、しかし原作のテーマを完全に無視したものになっていました。原作ファンは映画は別モノと思っていて、映画だけを観て「素晴らしい!」を連呼する人を警戒しているとも聞きます。

 映画の作り方としてはそのほうが正しいのでしょう。でも、この作品の方向性は、そっちではないんじゃないかと思うのです。



 いろんな意味で、この作品は英作家アーサー・ランサムの書いたランサム・サーガに近いのではないかと思うのです。ランサム・サーガは、ウォーカー家の4人の兄弟姉妹と、アマゾン海賊を名乗るブラケット姉妹の心躍る休暇をメインに描いた作品群で、岩波書店からハードカバーで全12冊出ており、図書館の児童文学コーナーの定番です。

 この夏、岩波少年文庫からの改訳刊行がスタートしましたが、第1巻である『ツバメ号とアマゾン号』も分冊の上下巻となっています。元のハードカバーで全12冊、岩波少年文庫で全24冊になる予定の大ボリュームなのですが、どうしてこんなに長くなっているかというと、これでもかっていうくらい説明しているからなんですね。1930年に出版されたこの小説には、当時のアウトドア知識やごっこ遊びのディテールが仔細に描かれており、そのことが裏打ちになって子どもたちの充足感が描きつくされています。

 このアウトドア知識やごっこ遊びのディテールの部分が、宇宙ショーにおいては膨大な裏設定(ポチたちの確執含む)と卓越したアニメーション技術の部分になるのではないと思うのです。



 あと、ドラえもんのキャラたちより、単純にランサム・サーガのキャラたちのほうがこの映画のキャラたちに似てると思うんですよねー。キャラそのものっていうより、キャラバランスが。

 自分の見立てでは以下のようになります。

 ジョン → 清

 スーザン → 倫子(のりこ)?

 ティティ → 周(あまね)、孝二

 ロジャ → 寛人(倫子の弟)



 ナンシー → 夏紀

 ペギイ → 倫子?

 まあ強引なこじつけにすぎませんが、ここらへんを比較しながらこの映画ならびにランサム・サーガを楽しむのも一興なんじゃないかなあと思ったりします。



 よろしければ公式サイトをチェックして、お近くの劇場で上映していないかご確認ください。→公式サイト

 なお、我が地元である広島県福山市では8/21から福山駅前のピカデリー劇場にて公開予定。近隣である岡山県倉敷市では9/11からMOVIX倉敷にて公開予定。同じスタッフによる前作『かみちゅ!』(TVアニメ)の聖地巡礼がてら、ぜひいらしてくださいな。


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4 こ・・・細かい。
5 実際劇場作品を観て…



*1:自分はそのように解釈しています、異論はあるでしょうけど。