アポストロフィーS

ワンワン!ワンワンワン!

都市の記憶

 岡山は、妹夫婦が住んでいてたまに遊びに行っていた。当時小学生だった娘と姪っ子を連れて、駅前にある映画館でプリキュア無印を観たりした。路面電車に乗って、終点の東山公園まで行ってフリスビーしたりしたのは、アニメ『マシュマロ通信』のOPが大好きだったからだ。あとかせきさいだぁ≡
 路面電車が好きなのは、はっぴぃえんどの影響なんだけど、ああいう古い街並みの風情ってそそられる。路面電車が橋を渡るあたりの、川沿いの街並みが大好きだ。夕暮れ時に乗っていると、そのまま銀河まで浮かんで行くような気がする。大阪では永く西成区に住んでいたけれども、そこも路面電車が似合う素敵にさびれた街だった。つまり、ひとけのない朝の珈琲屋でヒマをつぶしたりするのが似合う街なのです。
 いつか消えていくかもしれない風景。いつ消えてもおかしくない風景、風情。経済功利の世の中、資本主義が都市をどんどん解体してゆく過程で、流されていく人々、忘れられる時代と忘れられぬ記憶。


 地方都市はクルマ社会となり、大きな駐車場を備えた郊外のショッピングモールにのみ人が集まるようになってしまった。いきおい、かつての都心はさびれていく一方で、少しずつ廃墟に近づいていくかのよう。まるで死を目前にした老人みたいだ。『マシュマロ通信』のOPを歌っていた女の子は、売れないグラビアアイドルを経て今や売れっ子のAV女優だ。


 ニンスくんの新曲を聴きながらそんなことを思った。

 
 D

 この曲の良いところはたくさんあるけれども、子ども目線からの働く親の姿の向こうに、都市生活者の矜持があるのが最高に好きだ。路面電車が橋を渡る手前あたりに、彼の両親が営むレストランがあったのだろう。行ってみたかったな。


 今自分は岡山から近い生まれ故郷の街で一人で暮らしている。一昨年の秋に叔母が亡くなり今は一人暮らしの叔父の家が徒歩30秒くらいのところにある。飲み屋街の真ん中にぽっかりとある、住宅街の一角で、どうやら住んでいるのは老人ばかりのようだ。見かける若者といえば、水商売のお姉ちゃんたちとそれに群がるお兄ちゃんたちの群れくらい。だが、その風景自体は昔から変わらないのだろうな。
 自分が小学生の頃、親に連れられてよく映画館に行ってた。東映まんが祭りというのがあったのさ、今のプリキュアと特撮モノの併映と同じパターンね。映画館の隣にラーメン屋があって、そこを営んでいたのが父親の仕事仲間の奥さんだったから、よく映画の割引券をいただいていたわけです。映画を観た帰りに、そこでラーメンを食べたなあ。しょうゆラーメンがメインのお店だったけれど、自分はみそラーメンが好きだった。
 今はもうその映画館もラーメン屋もなくなってしまっている。かつて映画館だったところは、ぼくが高校生の頃にはスーパーマーケットになってしまい、今では料亭っぽい飲み屋になっている。かつては人通りが多かった商店街なのに、今は人影もまばらで、閉まっているお店も多い。
 駅前なのにインターネットカフェもなく先日マクドナルドも閉店になってしまった。
 そういえば、先日大麻で捕まって引退するらしいラッパーが全盛期に歌っていたっけ、「風に吹かれて時代は変わる」。いったい何が変わって、何が変わらないのか。言わなくてもいい繰言なのに、ついついつぶやいてしまう、どうしてこうなってしまったのかと。ついついあのAAをコピペしてしまうみたいに。